『コンビニ人間』で芥川賞を受賞した村田沙耶香さんの『殺人出産』を読んだ。この作品でえがかれているのは、「10人産んだら一人殺してもいい」という近未来的な世界である。そこでは「子供は人工授精をして産むものになり、セックスは愛情表現と快楽だけのための行為になった(p.12)」。
恋愛とセックスの先に妊娠がなくなった世界で、私たちには何か強烈な「命へのきっかけ」が必要で、「殺意」こそが、その衝動になりうるのだ、という。(p.13)
殺人が正当化される世界は、人間が人間性を奪われた世界である。僕はまず、透明で冷たく、無菌的な小説世界を想像した。しかし村田氏がえがく世界は、砂のような私たちを綺麗に平らにして優しく撫でるような、あたたかいものであった。この作品で救われるようなひとは、世間で「異常」とされるようなひとかもしれない。しかしそのようなひとも、人間という生命の一端を担っているのだ。これはそのようなひとに向けられた優しい作品であると思う。